「アルテミス」アンディ・ウィアー著

2018年07月11日




人類初の月面都市アルテミス──直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活するこの都市で、合法/非合法の品物を運ぶポーターとして暮らす女性ジャズ・バシャラは、大物実業家のトロンドから謎の仕事の依頼を受ける。それは都市の未来を左右する陰謀へと繋がっていた……。『火星の人』で極限状態のサバイバルを描いた作者が、舞台を月に移してハリウッド映画さながらの展開で描く第二作。

タフで賢いけど、イマイチついていない破天荒なヒロイン、ジャズが月面都市の巨大陰謀に巻き込まれていくストーリー。
資源開発のため、いつの日か月面都市が建設されるだろうなあとは、今現在でも想像つくわけですが、さらに未来は、観光都市にもなっている。そして俗っぽくて、犯罪もあるし、貧富の差も激しい…なるほど、ありそうです(汗)

前半は月面都市のあらまし、重力が弱い月での生活や力関係の描写が長い、ジャズのドタバタも長くて、ちょっと飽きる。まあ月の環境や資源開発があってのストーリー展開なので、わかるのですが、ここをサクサクいってほしかった。
後半は、一発逆点を狙ったものの、気がつくと陰謀のど真ん中にいた!もいかしてはめられた!?
…ここからジャズの快進撃が心地いい。

前作「火星の人」がおもしろ過ぎたので、今回も過剰に期待すると…あれ、でも、ちょっとトーンダウンか(汗)
月面のプラントやドーム型都市の仕組みなどが想像できないとちょっと辛い、あと人種間のあれこれとか…ビジュアルがあれば、すいすい進むんですが。
そういう意味で日本のアニメの原作に向いてそうな作品。

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「自生の夢」飛 浩隆 著

2018年06月22日


73人を言葉の力で死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍(イマジカ)〉を滅ぼすために、いま召還される───
第41回星雲賞日本短編部門受賞作「自生の夢」他、今世紀に発表された読切短編のすべてを収録。
最先端の想像力、五感に触れる官能性。現代SFの最高峰、10年ぶり待望の作品集。
「この作者は怪物だ。私が神だったら、彼の本をすべて消滅させるだろう。世界の秘密を守るために。」───穂村弘
その他の収録作品:

◎「海の指」第46回星雲賞日本短編部門受賞
霧が晴れたとき、海岸に面した町が〈灰洋(うみ)〉となり、異形の事物は奏でられていく。
◎「星窓 remixed version」日本SF大賞受賞第1作
宇宙空間からぽんと切り抜いたガラス板を買ってきた。
◎「#銀の匙」「曠野にて」「野生の詩藻」
天才詩人アリス・ウォンの生み出したもの、遺したもの。
◎「はるかな響き」 人類誕生以前に行われた犯罪、その結果、人類を殲滅させるに至った犯罪。


グランヴァカンスで、すっかり惚れこんだ飛 浩隆さんの短編集です。
短編でもその世界は濃密、ゆっくり丁寧に読みました。

「海の指」は、以前ネット配信で読み、その世界に飲み込まれそうな気持ちになりました。まだ地球があったとして、「世界」が存在するとしたら、ここは辺境の離島だろうか?ちゃぶ台にブラウン管のテレビ…昭和の風情の町で、平凡につつましく暮らす志津子。ところがこの町は人知が及ばない「灰洋(うみ)」に囲まれていて、異形の「海の指」によって人も町も書き換えられていく。
人々はたくましく、灰洋(うみ)を利用し、生活の糧にしているものの、灰洋と「海の指」は予知できない、決してコントロールはできない存在。灰洋は人や物だけでなく、記憶、喜びや悲しみ、嫉妬や恨み、感情さえも飲み込み、やがて「海の指」となって、再び町を飲み込み、町や人を改変していく。
圧倒的な世界観、湿った空気感、海辺の町の匂い、志津子のエロス。受け入れ、耐えることでしか強くなれない。日本という土壌でしか誕生しえないSFのような気がしました。

「星窓」はこれぞ短編、きらきらときらめく一夏を捉えたような作品。
「#銀の匙」「曠野にて」「野生の詩藻」「自生の夢」は連作、長編のような読み応えです。人はどこまでが人なのだろう。人の意志や感覚とはなんだろう。性格や記憶も操られていく世界がすぐそこにきているような。「羊たちの沈黙」のような怖さもあります。
「はるかな響き」も含め、感覚や言葉の世界に踏み込んでくる短編集でした。
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「第38回日本SF大賞・受賞のことば」、「選考経過 選評」、「スタッフ」が公開されました!
2018年6月22日

第38回日本SF大賞
小川哲『ゲームの王国』(早川書房)
飛浩隆『自生の夢』(河出書房新社)

飛は2度目のSF大賞受賞、異例もことらしい。でも充分その意義があると思います。

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「夜想曲集」カズオ・イシグロ著

2018年06月06日


ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、書き下ろしの連作五篇を収録。人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く、著者初の短篇集。

緻密に構築されているカズオ・イシグロの長編と比べると、とても読みやすい短編集。
登場人物はいずれも才能や能力が(そこそこ)あるにもかかわらず、人生をちょっと損ししてる、運悪くどこかでふみ間違ってしまったかもなあ…そんな人々。
野心をもって計算高くのし上がるほど悪人にもなれず、かといって善人にもなりきれない。まあつまり、そういう人いますよね、私たちのまわりに(笑)
そんな彼らにおとずれる、もしかして人生最大、最後のチャンス?ところが、なんか怪しい話、まじめなのになんかおかしい行動。クスクス笑ってしまうようなエピソード。
結末はあるようなないような…それも庶民の人生かなと思う。

ちょっとお間抜けな顛末も、品よくまとまっています。
ベネチアの運河の静けさや湿度、セレブな女達がまとっているだろう香水、町に流れる音楽や喧噪、夜景。高原の朝の空気感まで感じさせる美しい文章はさすがだと思います。

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「白熱光」グレッグ イーガン著

2018年05月22日


遠い未来、融合世界との意思疎通を拒んでいた孤高世界に、未知のDNA基盤の生命が存在する可能性が浮上。融合世界のラケシュは友人パランザムと共に、それを探すべく銀河系中心部を目指す。一方、“白熱光”からの熱い風が吹きこむ世界“スプリンター”の農場で働くロイは、老人ザックから奇妙な地図を見せられる…二つの物語の果てにあるものとは!?世界の法則を自ら発見する魅力溢れるハードSF。

イーガンを読むことは定期的に自分の「SF力」を確認するためかもしれない(笑)
読みやすい、わかりやすいとは言えないけれど、いつも自分の想像に及ばない未知の魅力に溢れています。

遠い未来、人類は宇宙へ進出、銀河系において他の種族とともに「融合世界」を構築しています。ところが銀河系の中心には、融合世界とは隔絶した別の世界「孤高世界」があるらしい。
ストーリーは、人類の末裔ラケシュの孤高世界への探索と、銀河の中心孤高世界「スプリンター」に住む知的生命体の長い物語が交互に描かれています。
といってもエイリアンとのファーストコンタクトものではないし、ましてや宇宙戦争や壮大な歴史が描かれているわけではないので、冒険やストーリーのおもしろさを期待すると挫折します。

遥かな未来、融合世界では、生命由来の存在(天然って意味)もあれば、生まれも育ちも電脳世界の人もあり、人はネットワークによって旅をします。
余談ですが、人型ロボットで有名な石黒浩教授(マツコロイド制作者)は、アンドロイドと人は、当たり前に共存しいくようになるし、人はやがて電脳世界に移っていく。宇宙が生身の人間にとって危険(放射線など)でも、電脳であれば環境も時間(寿命)問題ない、そのようにして人類は宇宙へ進出していくはず…と話しています。

「白熱光」で描かれる世界はまさにそれで、融合世界では必要に応じて何らかの形(体)になったり、アバターとして存在したりもできます。宇宙を人間の寿命で旅することは、光速だとしても何万年もかかったりで、現時点で不可能ですが、データ(電脳)として存在しているならば不死といってもいいので関係ありません。
それにしてもラケシュの旅は、いつ到達するのか、戻ってくることができるのかもわからない。そもそも旅に終わりがあるのかすらわからない。純粋に知的好奇心のみです。

もう一つの世界、スプリンターは一般的な惑星とは異なる重力で支配された岩石世界。知的生命体は岩石のトンネルに住む非人類型。環境を受け入れ、集団で穏やかに暮らしています。
ある時、スプリンターに住む男性ザックが「重さ」に興味を持ち、この世界を形作る、何らかの法則があるのではないかと観察を始めます。
地道な観測によって、少しづつ解き明かされる物理法則、その過程は解説にもある通り、天動説から地動説へ転換していくような感じです。
物理の記述は正直難解でわからないところも多いのですが(汗)、この世界が少しづつ解き明かされていく静かな興奮、それが最大に読みどころ、じわじわと感動がやってきます。

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梨木香歩著「私たちの星で」

2018年01月30日


ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話。世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。

イスラム教のコラムニストと日本人作家の往復書簡。
連載当時、ISが最も猛威を振るっていた頃、日本でもイスラムと聞いただけで、ちょっと構えてしまう、そんな時代…ついこの間ですが。
ローカルに暮らす私にとって、イスラムの人々に会うことはまれです。旅行者かビジネスか、たまに見かけるくらいです。ISの行動や世界各地でおきるテロ、日本とて無縁ではないと思うものの、イスラム社会はやはり遠い存在です。
ニュースを見ながら、私はイスラムの人々が皆悪いわけではないはずで、ごく普通のイスラムのくらしや文化に触れてみたいなと思いました。そんなことを考えていた時、本書に出会いました。
梨木さんもそのような気持ちで、イスラムをもっと知りたいと思われていたようです。

「普通のイスラム」といっても、手紙の相手はエジプト人の学者を父に、母は日本人で、現在は日本国籍だというコラムニスト、ちょっと特別な存在だと思います。ただ、そのようなで出自であるからこそ見えてくるものがあり、理想的な言葉でたとえれば「日本とイスラム社会との架け橋」ということになるのでしょう。

宗教に由来する人生観や価値観の違い、イスラムと欧米を中心とした対立。2人の往復書簡で交わされるのは、イデオロギー、平和を願う心など、社会的で大きく深い内容になるのかなと読んでいくと、最初のあたりはそんな雰囲気もありましたが、親しさを増すにつれ、平和で温かい子どもの頃の思い出や食べ物の記憶、信仰は深く関わっているけれど、どこの世界にもある日常的なくらしのあれこれ。そういうところに集約されていく。

2人は個人としてお互いを知り、認め合い、温かい友情を育むことになる。
良くも悪くも、作家らしい理想論くらいしかでてこない。「世界平和」を考えるなら、少し物足りないようでもありますが、2人は政治学者やジャーナリストとして書いているわけでない。一人の人間として別の社会を知るということは、こんなふうに親交を結ぶことなのかもしれません。

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