有川浩著「旅猫リポート 」

2017年03月22日


野良猫のナナは、瀕死の自分を助けてくれたサトルと暮らし始めた。それから五年が経ち、ある事情からサトルはナナを手離すことに。『僕の猫をもらってくれませんか?』一人と一匹は銀色のワゴンで“最後の旅”に出る。懐かしい人々や美しい風景に出会ううちに明かされる、サトルの秘密とは。永遠の絆を描くロードノベル。

書店で平積みになっていた文庫の表紙に、大好きな村上勉のイラスト、「旅猫リポート」ってタイトルもすてきです。有川浩はコロボックルシリーズの続編も書いているので、それかなと一瞬思いました。
猫好きな方なら。単行本の時点でとっくにご存知なんでしょうが、私は最近、出版情報にも疎くて、この本のことは知りませんでした。
全く予備知識なしに読んで…やられました(涙)

動物と暮らすということは、動物だけでなく人間同士でもですが、必ず出会いと別れがあります。
言ってみれば誰にでもある出会いと別れ、ごく普通のことなんですが、こんなふうに描かれると、出会いと別れもただただ愛おしくなります。
猫にも人にも、それぞれの生き方があり、それぞれの思い(あるいは本能?)がある。所詮思い込み、妄想といわれてもしょうがないのですが。

旅を通して、サトルは自分の身に起きた出来事や人生を振り返る。読む側としては自分の人生を肯定できるだろうか?と問われ続けているようにも感じます。
幸せと思うか、不幸と思うかは、その人の受け止め方、心のありようなのかなとも思う。

旅と回想、主人公サトル、猫のナナ、友人たち、それぞれが語り部となり物語は進みます。その切り替えがアクセントとなって、読みやすい。
ブラウン管テレビの上があったかくて気に入ってしまうとか、小さなエピソードも楽しい。雨の冷たさ、きらきらとした日差し、海、ごちそうの匂い、天候や空気感の描写も、有川浩うまいなあと思います。
しいていえば、こんなに聡明な猫は、なかなかいないと思うけどね(笑)



絵本版はルビ付き、小学生低学年から。
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おまけ
猫が主役(語り部)の物語は多数ありますが、私がおすすめするなら、ポール・ギャリコ。
動物はだいたい好きな私ですが、あからさまな猫最上主義、猫賛美はちょっと苦手です。
ポール・ギャリコの作品は猫と人との関係、その関係から生まれる何か、大きく言えば人生を問い直すような…旅猫リポートもそうですね。







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藤田大洋著「オービタル・クラウド」

2017年03月15日




2020年、流れ星の発生を予測するWebサイト“メテオ・ニュース”を運営する木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目“サフィール3”が、大気圏内に落下することなく、逆に高度を上げていることに気づく。シェアオフィス仲間である天才的ITエンジニア沼田明利の協力を得て、“サフィール3”のデータを解析する和海は、世界を揺るがすスペーステロ計画に巻き込まれて―第35回日本SF大賞、第46回星雲賞日本長編部門、ベストSF2014国内篇第1位。

グローバルな時代、ネットを支配する者が世界を支配するのだろうか?そんな思いにとらわれます。
読み初めてまもなく、文面に登場する大量の専門用語について行けなくなりそうになりました。
これが日本SF大賞受賞。いつのまにか自分は時代遅れのSF読みになってしまったのかも?…と感じてしまうほど(汗)
理解できないところはそのままですが、読んで行くうち、なんとかなったかも?(苦笑)

シェアオフィスで個人で仕事をする…優秀だけれども、ごく普通の感覚の持ち主である主人公和海、天才肌のエンジニア明利。
政情不安で、あらゆる規制がかかった中東で研究をつづける研究者。
軌道ホテルや宇宙ツアー、宇宙ビジネスに乗り出すIT富豪の陽気な親子。
南の島で気ままに暮らす富豪の天文マニア。
暗躍する北の女性工作員。日本に愛想つかし北に引き抜かれる天才エンジニア。
そしていつどこで起きてもおかしくないテロ。
近未来の設定ですが、今現在といってもおかしくないです。
解説にもありましたが、登場人物も設定も今現実にいそうな存在で、ストーリーの中心もテロなので、近未来SFといよりはミステリー色が強いです。

それにしても、国境も人種も関係ない、だれでも使えるパソコンやスマホで、やろうと思えば1人か、あるいは少人数でもスペーステロが出来てしまうことは、ある意味恐ろしい。
たぶんそれは、私自身が理解できない部分が多すぎるから、怖さが増すのかもしれません。

気になったのは、北をめぐる国際情勢がとても重要な設定なんですが、アレが「貧者の核兵器」であるなら、暴走することはちょっと考えにくい。細かく書くとネタバレになるので書きませんが、あくまでアレは交渉のカードで、暴走した次点でいろいろな意味でアウトかなと思う。
設定がとてもリアルなので、その辺がよけい気になりました。

感想は、ストーリーと技術が、息つく暇なく展開していくので、忙しくてストーリーを楽しむ余裕が、自分では難しかったなと思う。設定が最大の見所です。
それぞれの立場とそれぞれの思い、描かれてはいるけれど、とにかく忙しくて(苦笑)群像劇として、登場人物の味わいとか、空気感をもう少し描いて欲しかったかな。
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アダム・リース ゴウルナー「フルーツ・ハンター―果物をめぐる冒険とビジネス」

2016年03月08日


世界中のめずらしい果物を紹介しつつ、果物をめぐる冒険と歴史、果物ビジネスの可能性、果物の魅力に取り憑かれた奇人変人たちなど、果物と人間とのかかわりを幅広い視点からとらえる。

フルーツは元々大好きです。
以前放送された、NHK海外ドキュメンタリー「フルーツハンター」がとてもおもしろくて、本書はドキュメンタリーと直接の関係はありませんが、この世界おもしろそうなんです。

果物をつける植物は24~50万種、そのうち人の食用になるのが7~8万種らしい(おおざっぱ!)…一生では食べきれないですね(笑)
内容は、博物学的な視点から、歴史・文化、果物探偵(!?)、コレクター的なフルーツハンター、フルーツを信奉する人々、フルーツのセクシャルなイメージ、フルーツビジネス、奇人変人…もりだくさん。
ぶ厚く重い単行本ですが、おもしろくて読みがいのある本でした。
好奇心おう盛な著者の視点が、この本の最大の魅力かも。

読み始めてすぐ、次々でてくる多様なフルーツが文字情報だけで、どんなものか気になり始めました。
「深紅の梨のようなマレーフトモモはさわやかな甘みのある発泡スチロールをかじっているような」
「マフィンのようなサプカイアナットノキ」
「透明でねっとりした果肉のアビウ」
「ビリバはレモンメレンゲパイの味」
「チョコレートプディングみたいなブラックサポテ」
こんな記述があれば気になってしかたありません。
ふと気がつけば、私の手元にはスマホ、そうだ検索すればいいだけのこと。以降、気になるフルーツは検索しながら読むことに…すべてではないですが、かなりヒットします。匂いも味もわからないけれど、写真があると、ああなるほど!と思います。
読書の新しいスタイル(ワタクシ比)
とりあえず、アイスクリーム・ビーン食べたい。

フルーツの効能、薬効も取り上げていますが、「果食主義者」とかいうレベルになると、なにやら怪しげなカルト集団のよう。
ドリアン食べて霊的な体験をしたとか…
我々はエデンの園(リンゴとイチジク)に戻らなくてはならないとか…
ちなみに果実だけでは必要な栄養が不足する、特に子どもでは…と医師は警告しています。

フルーツにはセクシーな形態も多い。そこに信仰や文化も生まれるよう。
輸入、密輸問題も取り上げています。
いずれにしても、この世界には未知のフルーツ、知られざる効能など、まだまだありそう。

輸入のフルーツは当たり前のように手に入り、珍しいフルーツもお金さえ払えば、ある程度手に入る社会となりました。そのためには機械化や農薬、殺虫剤などが必須になるわけですが…。
そして規格にそったものの、私たちは本来のおいしさとはまるで違うものを食べている、そういうことも多そう。
木で熟した、採れたてのフルーツを味わうのが最高、けれどもその土地に行くか、暮しでもしなければ、一生食べることもないのだなあと、つくづく思います。

Fairchild Tropical Botanic Garden
本書とドキュメンタリー「フルーツハンター」に登場している、アメリカフロリダ州のフェアチャイルド熱帯植物園。
毎年7月にはマンゴーフェスティバル。同園が収集している500以上の品種・系統のうち,230種を超える果実が展示されるらしい。行ってみたい〜。

日本熱帯果樹協会
「熱帯果樹に興味を持つ愛好家が集う会」こういう会があるんですね。

参考 日本花卉ガーデンセンター本店 熱帯果樹苗
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玉村豊男 「旅の流儀」

2016年03月04日


旅立ちにはしばしば憂鬱さが付きまとう。遭遇するトラブルを思うと尻込みしたくなる。だが、どんなに辛い旅であれ、得られる収穫は計り知れない。ひとつの出会いがかけがえのない人生の財産にもなる。若き日の海外放浪以来、数え切れない旅を経験してきた著者が、独自のノウハウやためになる失敗談を惜しげもなく披露。「自分の鞄は自分で持つ」「旅先で本を読む」「なんでもない風景」ほか39章で綴る、大人の旅への招待。

旅の雑誌に連載された軽いエッセイ。
1960年代後半から、フランス留学時代のバックパッカーの旅、旅行ガイドをしていた頃、プライベートな旅から、日本にやってくる海外からの旅行客のこと、長野のワイナリーのこと、などなど。
とりとめないといえばそうだけれど、玉村さんの旅の歴史を軽く読めるのいい。
旅のスタイル、ありかたは人それぞれですが、あんなことがあったけ、時代はずいぶん変わったなあというもの、そりゃ40年以上もたてばそうだよねえ(笑)

おもしろいなと思ったのは、最後の章。
今は誰でも、行き先や旅の情報をインターネットやSNSから得るようになったけれど、そもそも全てが「風評」にすぎない。真為の定かでない情報ばかり溢れるようになれば、人はかえって流された情報を素直に信用しなくなるだろうから、大きなメディアが情報発信を独占していた時代より、自分自身の考えで情報を選別する能力が高まるのではないか…と玉村さんは期待したらしい。
ところが…
人々は以前よりもっと、真為の定かでない情報のすべてに反応し、情報に接する度に判断の自信が揺らいで、右往左往している印象が拭えない。

その通りだなあ…頭が痛い(汗)
それは旅に限らず、日々私たちは、SNSやネットに右往左往してますよねえ(苦笑)

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盛口 満 「ゲッチョ先生の野菜探検記」

2015年07月08日


ゲッチョ先生こと盛口先生は「骨」だけではなく、様々な生き物にも目を向けている。今回のテーマは野菜。「なぜ野菜は食べられるのか?」を追い求めるナスマニア・ゲッチョ先生と野菜嫌いの人々とのソクラテス的対話から浮かび上がる野菜の正体とは…。

おもしろい人の友達はおもしろいんだな〜と実感。
ゲッチョ先生さすがです。
野菜に関する本は数多く、料理本だけでなく、古今東西の種類や来歴、または歴史を変えた野菜(穀類)、文化的検証…なんて本も結構出てます。
この本もそういうカテゴリーにはなるのですが、アプローチがこれまでとちょっと違う。

ゲッチョ先生は子どもの頃から生き物好き、そのまま大人になった「生き物屋」…まあ簡単にいえばオタクですね(笑)
そんな生き物屋にもたくさんの種類がいて、虫好きは「虫屋」というように、野菜屋、鳥屋、チョウ屋、カミキリ屋(虫の方)、コケ屋…とマニアックに細分化されていく。
ゲッチョ先生はナスマニア(!)「ナス屋」でもある。ナスへの思い入れ、変わったナスを見つければ「カッコイイ」と思う。

で、そんな生き物屋の友人たちは個性的で、時にエキセントリック。
「ヘビ屋」のナカイ君は、極端な野菜嫌い。「野菜は毒です!」と公言する。トマトはケミカルな味がする、わさびは猛毒。きゅうりはデンジャラス、河童の餌だと言う(笑)
「切っただけで涙が出るタマネギなんて野外で会ったら毒だって思いますよ」…なるほど〜(笑)
よくよく聞くと、好き嫌いというより、ナカイ君は野菜の苦味や匂いに敏感らしい。

ゲッチョ先生はそれをきっかけに「野菜だってもともとは食べられたくない」はずだということに気がつく。嫌いな「理由」の根底には、植物の防衛手段があることに気がつきます。
苦味や香り、毒(タバコに含まれるニコチンなども)は野菜の防衛手段。大根の辛みも食べようとする虫によっては猛毒になるらしい。
そして「毒」である野菜(植物)を人間や生き物は「薬」として利用したり、人間は効率的な食料となるよう改良してきた歴史があります。

ゲッチョ先生は、独特のものの見方をする生き物屋の友人を通して、野菜を見直していく。
ミョウガ、キュウリ、メロン、カブ、キャベツ、こんにゃく、サトイモ、ジャガイモ、ナス、バナナ、豆、コリアンダー…他いろいろ。
おなじみの野菜が視点を変えると全く別の顔をしていて、おもしろかったです。
ゲッチョ先生が暮らす沖縄の野菜や食文化、沖縄の子どもたちの野菜の見方なんかも楽しい。

目からウロコはレタス。
レタスは、キャベツや白菜などアブラナ科と遠い「キク科」ノゲシに近い仲間だという。キャベツもレタスもそれぞれ別に、丸く結球するよう品種改良されてきた結果、似た見た目になっただけらしい。
レタスの先祖のノゲシは、固く苦く、トゲトゲの葉で武装した植物でした。
レタスには虫が付かないと聞きますが、キク科に虫がつきにくいのと同じことなんですね。レタスの根元の切り口に白っぽい汁が出ますが、これはタンポポなどキク科と共通しています。レタスは収穫しないでおくとノゲシそっくりの花が咲くらしい(!)
(そういえば、白菜の芯みたい野菜チコリは白菜と無縁のノゲシの仲間です)

野菜はよく食べますが、知らないことがまだまだたくさんあるなあと思いました。
とにかく、ゲッチョ先生の生き物屋の友人がおもしろい。博物誌のような読みにくさがないので、とても読みやすいです。

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