梨木香歩著「私たちの星で」

2018年01月30日


ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話。世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。

イスラム教のコラムニストと日本人作家の往復書簡。
連載当時、ISが最も猛威を振るっていた頃、日本でもイスラムと聞いただけで、ちょっと構えてしまう、そんな時代…ついこの間ですが。
ローカルに暮らす私にとって、イスラムの人々に会うことはまれです。旅行者かビジネスか、たまに見かけるくらいです。ISの行動や世界各地でおきるテロ、日本とて無縁ではないと思うものの、イスラム社会はやはり遠い存在です。
ニュースを見ながら、私はイスラムの人々が皆悪いわけではないはずで、ごく普通のイスラムのくらしや文化に触れてみたいなと思いました。そんなことを考えていた時、本書に出会いました。
梨木さんもそのような気持ちで、イスラムをもっと知りたいと思われていたようです。

「普通のイスラム」といっても、手紙の相手はエジプト人の学者を父に、母は日本人で、現在は日本国籍だというコラムニスト、ちょっと特別な存在だと思います。ただ、そのようなで出自であるからこそ見えてくるものがあり、理想的な言葉でたとえれば「日本とイスラム社会との架け橋」ということになるのでしょう。

宗教に由来する人生観や価値観の違い、イスラムと欧米を中心とした対立。2人の往復書簡で交わされるのは、イデオロギー、平和を願う心など、社会的で大きく深い内容になるのかなと読んでいくと、最初のあたりはそんな雰囲気もありましたが、親しさを増すにつれ、平和で温かい子どもの頃の思い出や食べ物の記憶、信仰は深く関わっているけれど、どこの世界にもある日常的なくらしのあれこれ。そういうところに集約されていく。

2人は個人としてお互いを知り、認め合い、温かい友情を育むことになる。
良くも悪くも、作家らしい理想論くらいしかでてこない。「世界平和」を考えるなら、少し物足りないようでもありますが、2人は政治学者やジャーナリストとして書いているわけでない。一人の人間として別の社会を知るということは、こんなふうに親交を結ぶことなのかもしれません。

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アーシュラ・K・ル・グウィン氏死去

2018年01月24日
ゲド戦記作者のアーシュラ・K・ル・グウィンさん死去 2018年1月24日11時08分
米作家アーシュラ・K・ル・グウィン氏死去
サイエンスフィクションとファンタジーの作品を多く発表し、世界的に愛された米作家、アーシュラ・K・ル・グウィン氏が22日、死去した。家族が23日に明らかにした。

敬愛してやまないSF作家、アーシュラ・K・ル・グィン氏が、亡くなりました。
最初に読んだのは「ゲド戦記」、子どもの頃その世界はまってシリーズを読みました。
それから少し大人になって、児童文学だけの作家ではない事を知りました。代表作を挙げるとすれば「闇の左手」、「所有せざる人々」でしょうか。
児童書では「ゲド戦記」の他。比較的新しい「ギフト」で始まる「西のはての年代記」シリーズもおもしろかったです。
短編や評論でも読みがいがあります。

物語のおもしろさや設定のユニークさ。「ゲド戦記」では自分とはなにかを、「所有せざる人々」では人や社会、価値観とはなにかを、「闇の左手」では性別とはなにか?
相反する世界をテーマに、相手を知ること、いずれの作品も、相手を理解する喜びと完全には理解しえないもどかしさがあります。
たぶん一生かかっても答えの出ない問いに対する共感、そんなところに引きつけられたのかなと思います。

ちなみにこのブログのタイトル「オルシニアン」とは、ル・グィンの「オルシニア国物語」に由来します。
ブログを始める時、内容を決めつけたくなかったので、タイトルから内容を想像しにくいものがいいと思い、架空の国オルシニアの住人という意味で「オルシニアン」としてみました。
「オルシニア国物語」は、ル・グィン作品ではかなり地味な方、「オルシニアン」という言葉もないので、誰も突っ込まないだろうと(笑)。
ひっそりと偉大な作家につながっていたい…そう思いました。

ニュースには、しばらく病床にあり、安らかに亡くなったとありました。
心よりご冥福を祈ります。







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「ロボット・イン・ザ・ガーデン」デボラ インストール著

2017年12月15日


AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。弁護士として活躍する妻エイミーとは対照的に、親から譲り受けた家で漫然と過ごす三四歳のベン。そんな夫に妻は苛立ち夫婦は崩壊寸前。ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけた旧型ロボットのタングを発見。他のアンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、作り主を探そうと、アメリカへ。中年ダメ男とぽんこつ男の子ロボットの珍道中が始まった…。タングの愛らしさに世界中が虜になった、抱きしめたいほどかわいくて切ない物語。

旧式で壊れかけたロボット、タングと大人としてかなり頼りない男ベンの成長物語。
ロボットやアンドロイドのメカニックな設定、時代背景がほとんどないので、SFっぽさを期待すると、あれ?っとなるかも。近未来SFというよりは、平凡な日常の中に、非日常の誰かが突然降ってくる「ET」のようなファンタジー。
私としてはピノキオ読んでる感じでした。とても読みやすいです。
タングの魅力がこの本の要なんですが、どうしてこうなったか?ってところはイマイチわかりにくい。
あと、ベンがあまりに軟弱すぎるのがちょっとなあと感じます。妻とうまくいってないんですが、こういう一見強そうで内面もろい女性は、ベンのような男性をパートナーに選ばないような気もする。

ベンのタングへの「愛」や「友情」こだわりは、車やバイク、フィギュアを愛し、ひたすら手入しながら離れない…、もしかして家族以上に大事なのか?って人がいますよね?(主に男性)そんな感じです。
そういうこだわりをもったことのある人なら共感できそうな気がします。

個人的には、悲しい結末にならなかったのでほっとしたんですが、よくある元サヤ話で、悪役キャラはステレオタイプですし、ちょっと俗っぽいかなと思います。
あとがき読むと、もしかすると映画化(アニメ化)されるかも?ですが、良くも悪くも家族ぐるみ安心して見られる映画になりそうです。つまりETみたいな映画ってことです。

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「ますます眠れなくなる宇宙のはなし〜「地球外生命」は存在するのか」佐藤勝彦 著

2017年08月24日


宇宙論の決定版ロングセラー『眠れなくなる宇宙のはなし』、待望の第2弾です。本作のテーマは地球外生命。近年急速な発達をとげている太陽系外惑星の最前線レポートから、「はやぶさ2」のミッション、火星の生命の可能性、生命の存在条件などまで、幅広く解説します。「第二の地球」は近い将来みつかるのか。ご期待ください。

想像以上にわかりやすく、読みやすかったです。
太陽系外に地球型の惑星が見つかった…なんてニュースに、ちょっと盛り上がったりする今日この頃ですが、なぜ肉眼でも見えてないのにわかるのか?などなど。
宇宙人はいるのか?コンタクトが取れる日が来るのか?
たとえば将来、地球型惑星に人間の移住は可能なのか?
なるほどと思いながら、すいすい読めてしまいます。

これほど広大で無数の星があるのだから、知的生命体や人間に近いとまでいかなくても、なんらかの生物がいるに違いない…SFでなくとも、かなり昔からそう考えられてきました。私はこどものころから宇宙人を想像してワクワクしてました。
しかし私たちは、地球以外では生命の痕跡すら見つけていません…今の所。

調査や研究が進むにつれ、生命が育まれるためには、様々な条件があり、太陽系のなりたちからも、地球はたまたまそれらが揃っただけ、文字通り奇跡の星なのかも?そんな風にも思えてきます。
太陽から遠からず、近すぎずで、ちょうどいい温度で、大気をキープできるくらいの大きさで。
地球が生命を進化させる期間に、小惑星や彗星が衝突してしまうと、進化の前に大量絶滅。回避するため太陽系に侵入してくる小惑星や彗星を重力で吸い取ってくれる巨大惑星(木星・土星)が2つ必要、しかし巨大惑星が3つだとバランスが崩れ、地球はいずれはじき飛ばされるか、大きな惑星に飲み込まれてしまうらしい。
ではまるっきり彗星や小天体の衝突がないといいのかというと、アミノ酸などから偶然生命が誕生するには、時間がかかりすぎる。生命のきっかけは、小天体に含まれた生命の材料によって(何らかのインパクト・事故のようなものによって偶発的に)誕生したのかもしれない。
過酷な環境でもだめ、何事もおきないおだやかな環境でもだめ。地軸の傾きや紫外線から守る磁場やオゾン層…ちょうどいい環境(笑)
そんな惑星を、たまたままだ見つけていないだけなのか?
観測技術や研究が進み、今後もたくさんの地球型惑星が見つかっていくのでしょうが、生命を育む星を見つけられるのか?はっきりしたことはわかりません。

さらに、人類が宇宙に出るには、地球と同じように空気など環境を維持し、宇宙放射線などから守ることのできる宇宙船が必要です。それは宇宙人とて同じはずですよね(笑)
通信だけでもなんとかならないのか?宇宙人からの電波を受信する試みは長く続いていますが、結果が出ないまま時が過ぎ、予算が削られて行く状況。

諸説いろいろありますが、宇宙人と交信するには遠すぎる、人類の歴史と寿命で捉えるには、宇宙は広すぎるのだろうなあ…少なくとも今の人類では…と思います。
そう考えると、宇宙人が地球征服にやってくるとか、スターウォーズとか、高度な知的生命体が原始的な人類に見かねて、活気的な技術をもたらしてくれるとか?…夢のまた夢かなあ(笑)

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「図書館の魔女 」高田大介著

2017年07月08日


鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!第45回メフィスト賞受賞作。

分厚い文庫4冊、読み応えです。
しっかり構築された世界観は、指輪物語やゲド戦記、十二国記のような。その分、理解が進まないと読みにくいところもあります。使い慣れない漢字、熟語の多さも、読みにくさかも、特に1巻目は慣れていないので。
ここまで漢字を多用しなくともと思いましたが、文章や文体こそがファンタジーを形作るもの、漢字の海をかき分けるように読み進むうち、唯一無二の世界がここにあるのだと感じられます。
ファンタジー読みでないと取っ付きにくいかもしれませんが、いったんその世界に入ってしまえば、この世界で繰り広げられる壮大なストーリーにはまります。
ただ「双子座」にミトウナ、「自動人形」にアウトマタなど、漢字を外国語読みさせることには抵抗もあります。

知と歴史の集積、図書館はいわば生きたデータベースであり、それらを読み解くために高度な知力を要求すします。その知力を持った者にだけ開かれるのがこの世界の図書館。
図書館という閉じた世界のお話かと思えば全く違う。「魔女」が登場しても、それは魔術でも呪術でもなく、むしろ魔術や悪しき因習を、古今東西の知識や理論でぶち破るのがマツリカたちの仕事。そこにスカッとします。
マツリカたちは、知と理論(時に理屈)を駆使し、策を講じながら紛争の解決、そして世界を変えようとする。それが本書の大きなストーリー。伏線だらけですが、基本は勧善懲悪だと思います。

マツリカは、折にふれ言葉とは何かと問いかけます。
言葉とは情報を伝えるための道具としてではなく、言葉の持つ力に目を向けろと言います。その言葉により形作られた文章、本、…その集積である図書館、そこは資料庫ではなく、知のパワーが満ちているところ。
言葉は伝える本、人がいる限り滅びない。
それは作者高田大介の「言葉」への愛、本への愛なのだと思います。高田は言語学者らしいのですが、なるほどと思いました。
そう考えると、長編も難解な言葉の多用も、SNSの短い文章や顔文字で済ます現代社会への、挑戦的な提言なのかもしれません。

キャラクターもおもしろいです。
言葉を発しない「図書館の魔女」は傲慢とも見える少女、老猾な思考と幼さのギャップ萌え(笑)
2人の司書も個性的で、仕えるというより図書館への愛とわかちがたい友情で結ばれています。キリヒトの先生、政治家、衛兵たち。みなそれぞれに訳ありです。図書館は一つのチームなんですよね。

魔女に仕える事になった田舎育ちの少年キリヒト、マツリカとキリヒトの主従関係の変化も大切なストーリーです。2人が秘密の地下道を探索する場面にわくわく。運命に翻弄され大人にならざるをえないキリヒトが切ない。
そして少年少女の恋心は、頼りなくも未来への希望そのもの。

ラストの長いエピローグは、登場人物たちをねぎらうようなあたたかさがあり、救われます。
世界は良くも悪くも常に変化しつづける。人は出会いと別れを繰り返し、少年少女は成長し、その関係も変わっていくのだろう。
この世界にはまだ語られていない続きの物語がある、そんな読後でした。





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