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小野不由美「丕緒の鳥 十二国記」

2013年08月07日

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)
(2013/06/26)
小野 不由美

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「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒は、国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか―表題作ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。

十二国記の12年ぶりの新作短編集。
十二国記のすごさを知っている人しか読まないとは思うけれど、これは番外編。王や麒麟や活躍し、奇獣が跋扈する本編とは異なり、下級役人や民の物語。
圧倒的な世界観はさすがだけれど、テーマも内容も重いと言えるでしょう。
ファンタジー、十二国記という体裁でも、作者が描きたかったのは、辛い時代を生きぬく人々なのだと思います。

「丕緒の鳥」
王の即位式で、陶製の鳥を射る華やかなセレモニーを司る役人の話。
国のあちらこちらに斜陽の気配を感じながらも、やるべきことをやらなくてはならない、公務員はつらいよといった感じ。
丕緒の鳥とは滅びと再生の象徴か。

「落照の獄」
これはずばり、死刑の是非を問うストーリー。誰が見ても極悪非道な事件の犯人が捕らえられ、死刑以外はないという世の風潮。裁判官である主人公は、世論を十分理解しながらも、事実上死刑を封印してきた自国に誇りをもってきた。繁栄をきわめてきた国に陰りが見えてきた今、死刑を復活させてしまうことは、今後、刑が安易に連発されていくことになるはずと憂う。
犯人には何か止むに止まれぬ理由があるのかもしれない、まだ善の心が残っていて改心の見込みがあるかもしれないと、一縷の望みを抱いて接見するも、そこにあるのは命への無関心と、善悪を越えた虚無感だけ。
結局のところ、極刑になってもならなくても、残るのは敗北感のみ。

「青条の蘭」
人も国土も荒れていく国で、唯一の資源ともいえる森の木々が疫病によって枯れていく。なんとかくい止めたいと奔走する主人公。しかし人々は自分のことだけで手一杯、お役所は腐れきっている。
「走れメロス」的な展開、絶望的な状況で最後に希望は見えて来たのだろうか、あって欲しい。
それにしても…せつないなあ、せつな過ぎる。

「風信」
国は内戦のような状況。家族を失う悲惨な現場から生き残った少女は、別の土地でつかの間の平穏を得るが、再び訪れる悲劇。なんの罪もない人々が、なぜこのような苦境に立たされるのか、無力感にとらわれてしまう。
しかしそれも受け入れる他ない。一人の力は無力でも、ひとり一人が自分のなすべきことをして生きていくことが、希望につながるのかもしれない。

全体が暗い中でも、「丕緒の鳥」には 十二国記らしい、きらびやかな雰囲気がありますが、2つめの「落照の獄」で深い深い虚無感にとらわれ、ここで本を投げ出してしまいそうになりました。
そして「青条の蘭」で絶望に突き落とされ、不確かな希望にすがる。どうしたものかと思いつつ「風信」まで読み終え、なんとか明るい兆しが見えたかも…。
読み始めたころに、ちょっと落ち込むこともあり、読み進めるのが辛くなってしまったのですが、最後まで読んでこそ見えてくるかすかな希望。途中で放り投げなくてよかった(汗)
この暗さに引きずり込まれてしまうのは、作者の力量なと思う。これもまた十二国記。

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