ルオー版画集ミセレーレ全作品(福島県立美術館所蔵)

2015年08月20日
~ふくしまからの発信~福島県立美術館所蔵 世界の名作版画展
ルオー版画集ミセレーレ全作品
2015年8月7日(金)~20日(木)
福島県文化センター
休館中に美術館所蔵の海外の版画作品を福島県文化センターを会場に公開。
 8月に開催する第1部では、20世紀を代表する宗教画家ルオーの版画集《ミセレーレ》全58点を展示します。第一次世界大戦の勃発と父親の死をきっかけに構想されたこの作品は、聖と俗のはざまで生きる人間の苦悩と悲哀を浮き彫りにし、人間のあり方について見る者に問いかけます。


ルオーの代表作「ミセレーレ」は、様々な解釈ができるようなんですが、聖書に通じているわけでもないので、なかなか深いところまではいけないものです。
とはいえ、全作品を見る機会があれば、少しでもルオー近づいてみたいものだと、こうして訪れるのでした。
この日は終戦記念日でした。

1作目の「神よ、われを憐れみたまえ、あなたのおおいなる慈しみによって」からはじまる全58点には、ルオーによるタイトルがつけられ、それも作品の一部となっています。
日本語訳は岩波書店から刊行された時に、日本語に訳されたもので、今では使用できない単語(いわゆる放送禁止用語)も含まれていますが、タイトルも重要な作品としてそのまま展示されているそうです。

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(1)神よ、われを憐れみたまえ、あなたのおおいなる慈しみによって

たびたび登場するうなだれる人物は、庶民であり、この世(ルオーが生きた時代)にいるキリスト。

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(5) 罠と悪意のこの世にただ独り

ミセレーレ全作品は壮観です。
数点だけ見ると、荒々しいタッチが印象に残りますが、並べてみるとルオーのデッサン力のすごさを感じます。モノトーンのコントラストが、人物の肉体を美しく際立たせ、肉感的で生き生きと実在を伴っているような。

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(10) 長き苦悩の古き場末にて

作品に登場する町は、ルオーが生まれたベルビューという場末の町。

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(19)弁護士は空ぞらしい言葉で彼に悪意なしと主張する…

政治家や権力者を嫌っていたルオーは、裁判官や弁護士も嫌っていたらしい。人を裁けるのは神のみ、裁判官は偽善者であると…。当時は金持ちや権力者に都合のいい裁判しか行われなかったということでしょう。同じような理由で、思想家(かっこつけ、思い上がり)や占いも嫌っていたという。
しかし、これでは神しか人を救えないわけで、善人はこの世では全く報われないということになってしまう。

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(22)世は様々なれど、荒地に種蒔くは美しき仕事

農夫はルオー自身。苦悩に満ちたこの世にあって、美しいものを提供する芸術は、高貴な仕事であるという誇り。

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(37)人は人にとって狼

権力者や政治家によって虐げられる苦悩。骸骨がかぶっている帽子は軍隊の象徴。
否応なく兵役に出される人々。骸骨とはもちろん「死」の象徴。

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(42)母たちに忌み嫌われる戦争

母子像はこの世の「聖母子」
この時代の戦争とは第一次世界大戦のこと。男達は戦争を肯定するけれど…。

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(47)深き淵より…

「深き淵」とは亡くなった人を悼む場面。
壁にかけられている「聖顔」があるということは、亡くなった人が「いい人」ということらしい。

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(52)法は苛酷、されど法

法によって兵役につかなければならない男。選択肢はない残酷さ。
ルオーの生きた時代、法は正義でもなければ、庶民を守ることもないというのはいったいどんな世の中か。
作品に登場する男性は、キリスト(又はキリストを連想する人物)か悪人がほとんどですが、この人物はどちらでもないと思う。もの静かで理知的な雰囲気が印象的でした。

貧しき人々の中に暮らしてたルオー、ミセレーレはそうした人々を救済しているわけではなく、貧しく虐げられても尚、信仰に根ざした清い人生を求めている。自分にも他者にも…とても厳しい。
そこに全く迷いがないのは、信仰ゆえか、芸術家のエゴか…。
私はまだまだルオーには近づけないと思いました。
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「ミセレーレ」は、58点の銅版画が一つのセットになった大型銅版画集で、1948年に出版されました。
450部が刊行、日本では福島県立美術館、宮城県美術館、国立西洋美術館、ポーラ美術館、大分県立美術館、河口湖美術館など、ちょっと検索しただけでも複数セットが収蔵されています。

ジョルジュ・ルオー
ルオー全版画 岩波書店
〈ミセレーレ〉
ジョルジュ・ルオー/Georges Rouault(1871-1958)    
1 神よ、われを憐れみたまえ、あなたの大いなる慈しみに よりて
2 イエスは辱められ…
3 たえまなく笞うたれ…
4 不幸な乞食よ、お前の心の中に身を避ける
5 罠と悪意のこの世で、ただひとり
6 われらは苦役囚ではないのか?
7 われら自らを王と思い
8 自分の顔を作らぬ者があろうか?
9 道の美しい時もある…
10 悩みの果てぬ古き場末で
11 明日は晴れるだろう、難破した者はそう言った
12 生きるとはつらい業…
13 でも愛することができたなら、なんと楽しいことだろう !
14 歓楽の娘と呼ばれるが
15 清らかだった唇に、苦い味
16 上流社会のご婦人は、天国で予約席に着けると信じている
17 解放された女は、もったいぶった口調で歌う
18 罪を宣告されたものは立ち去った…
19 弁護士は空ぞらしい言葉で、彼に悪意なしと主張する…
20 忘れ去られた十字架のイエスの下で
21「虐げられ苦しめられたれど、彼は口を開かざりき」
22 世はさまざまなれど、荒地に種まくは美しき仕事
23 孤独者通り
24 「冬、大地の癒えぬ病」
25 ジャン=フランソワは決してハレルヤを歌わない…
26 渇きと恐れの国では…
27 世のことがらは涙を誘うものがある…
28 「われを信ずるものは、 死すとも生きん」
29 朝の祈りを歌え、陽はまた昇る
30 「われら…彼の死において洗礼を受けたり」
31 「汝ら、互いに愛し合うべし」
32 主よ、あなたです、わたしはあなたを認めます !
33 そして柔らかな麻布を持ったヴェロニカは、今なお道を行く…
34 「廃墟すら滅びたり」
35 「イエスは、世の終わりに至るまで苦しみたまわん…」
36 これが最後だよ、おやじさん!
37 人は人にとりて狼なり
38 中国人が火薬を発明し、われらに贈ってくれたという
39 われわれはみな愚かもの…
40 向かい合い
41 占者たち…
42 母たちに忌み嫌われる戦争
43 「われら死すべきもの、われらもわれらの仲間のすべても」
44 わがうるわしの国、どこへ 行ったのだ?
45 刺草の床から出たとたん、死は彼を襲った
46 「正しい人は、白檀の木のごとくおのれを打つ斧に香を移す」
47 深き淵より…
48 酒槽にて、葡萄は潰された
49 「心高貴なれば、首こわばらず」
50 「爪と嘴で」
51 ランスの微笑からはほど遠く
52 法は苛酷、されど法
53 七つの剣の悲しみを負う聖母
54 「死者よ起て!」
55 時には、目の見えるものを 見えないものが慰めた
56 高慢と無信仰のこの暗き時代に、地の果てより聖母は見守る
57 「死に至るまで、そして十字架上の死に至るまで従順なる」
58 「われらが癒されたるは、彼の受けたる傷によりてなり」
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