ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし

2015年10月01日
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《快復期》1888年 油彩・カンヴァス

ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし
2015年8月6日(木)–10月12日(月・祝)
宮城県美術館
フィンランドを代表する画家ヘレン・シャルフベック(1862−1946)の個展を日本で初めて大規模に開催します。シャルフベックは、2012年に生誕150周年を記念する大回顧展がフィンランド国立アテネウム美術館で開催され、近年、世界的に注目される画家の一人となっています。
彼女は、3歳のときに事故で左足が不自由になりましたが、11歳で絵の才能を見いだされ、後に奨学金を獲得し憧れのパリに渡ります。パリでは、マネやセザンヌ、ホイッスラーといった画家たちから強い影響を受けました。フィンランドに帰国後は母親の介護をしながらヘルシンキ近郊の街で絵画制作を続け、自分のスタイルを展開しました。これ以降のシャルフベックの作品からは、17世紀のエル・グレコに学んだ作品など、美術雑誌からインスピレーションを得ようとしていたことがわかります。また、彼女は新しい技法を試すかのように、斬新なスタイルの自画像を多数制作しました。
本展では、5つのセクションでシャルフベックの全貌に迫ります。19世紀末から20世紀初めに活躍したフィンランド女性画家の魂の軌跡を日本で初めてご覧いただきます。


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《雪の中の負傷兵》1880年 

フィンランドを代表する画家…といっても私は全く意識したことのない画家です。
10代から最晩年の作品まで、スタイルの変遷も網羅したシャルフベックの大回顧展。見応えがありました。
15歳の頃描いた骸骨を見ても、デッサン力の確かさ、うまいなあと思います。ベラスケスやホルバインの模写も展示されていましたが、とにかくうまい。
才能を認められた「雪の中の負傷兵」は、雪の柔らかな表現など全体の美しさと、そしてストーリーが感じられます。

回顧展の見応えはもちろんですが、一人の女性の生涯「女の一生」…というとベタですが、作品に現れる彼女の心の軌跡は、小説を読むような感じで、この回顧展をより一層おもしろくさせているように思う。
「おもしろい」とは、ままならない人生だからこそで、画家として名声を得ても、実生活は必ずしも幸せとは言えないのという著名人にはありがちな話(汗)今で言うならリア充はままならなかったということか?
まあでも…著名な画家として、おもしろかったという表現は許されると思う。

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「洗濯干し」 1883年 油彩・カンヴァス

今回展示されていた作品は、いずれも魅力的でした。
代表作の人物画もいいし、こんな風になにげない風景も、フィンランドの自然を感じられます。
「堅信式の前」は白いブラウスの初々しい若い女性を描いたものですが、フィンランドの初夏の光や澄んだ空気をより身近に感じます。

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扉 1884年

「扉」はちょっと意味深な作品。閉じられた扉は画家の心なのか、それとも失恋した相手の態度か…いかようにも解釈できそう。

20代の初め、イギリス人画家と婚約したシャルフベックですが、一方的に婚約を破棄されます。
心に大きな傷を負ったシャルフベックが、ようやく立ち直り始めた時に描かれたのが代表作「回復期」。
子どもをつつむ柔らかな布、部屋をつつみこむ暖かな光。やつれた中に血色がもどりつつある。なんといっても、寝癖がついた髪が楽しい。
病から回復した子どもが持つのは、新芽の枝、文字通り回復期…わかりやすい(笑)

子どもや少年少女を描いた作品が多い。なんとなく、いわさきちひろの描く子どもを思い出す。
あと、シャルフベックは面食いです…たぶん(笑)

生活のため美術学校で教えていたシャルフベックは、画家に専念するため、1902年ヘルシンキ郊外の町ヒュヴィンカーに移り住みます。
「フィエーゾレの風景」など、この地の風景画もいい。当たり前のことですが、画家の目、何を見ているのか、何に心を動かされていたのか、風景画は心象風景でもあるように思います。

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《アイトクーネから来た少女》 1927年

ほとんど引きこもり?この地を離れることがなかったようですが、美術界の情報はきっちり把握していたらしい。
パリ留学時代や美術界の新しい潮流の影響を受けながら熟成し、画風も変遷しながら、シャルフベックは画家として充実の時代を迎えます。
描かれた女性達は、美人だったりエキゾチックだったり、いろいろですが、エレガントでみなかっこいい。そしておしゃれ。このあたりは女性画家の目線というべきか。
豊かな色彩感覚も心地よさの理由かも。シャルフベックはファッションにも敏感だったそう。

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ヘレン・シャルフベック《自画像》1884-1885

見どころは、折々の自画像。
1884年の自画像ではまだ洗練されていない、若く生真面目そうな女性。

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《黒い背景の自画像》1915年 油彩・カンヴァス

名声を確立した頃の自画像はモダンで、自身の作品に自信がある感じ。

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《ロマの女》1919年 

1915年、森林保護官で画家のエイナル・ロイターと出会い交流が始まります。
シャルフベックは53歳、19歳下のロイターに恋愛感情を持っていましたが、ロイターはそうではなかったようで、年下の女性と結婚してしまいます。
泣く女「ロマの女」は失恋を描いたもの。

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《未完成の自画像(裏)》1921年

ロイターとはプラトニックな関係のように察しますが、失恋の痛手から立ち直れない頃の自画像「未完成の自画像」には、パレットナイフで切りつけたあと、シャルフベックのダメージの大きさがわかります。同時にあご上げ、プライドを保とうとする姿が。
同時期にロイターを描いた作品がありました。
陰になっているのか、表情が全くわからないロイター。信頼し合い、よく知っているはずの人が、ある日突然、わからない存在になってしまうような、遠くに去っていくような感じで、こちらの方がシャルフベックの絶望が大きく感じられます。53歳でも、人生経験の豊富であっても失恋の痛手は大きい、それだけピュアな心だったということか。

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《正面を向いた自画像 I 》1945年 油彩・カンヴァス

最晩年の自画像は、老いて枯れていく過程そのもの。
おしゃれであっても、美しくなくとも、衰えていくところを描かずにはいられないのが業。画家とはそういうもの。
死期が近づくということは、この世からどんどん離れていくところなんだなあと思う。

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《自画像、光と影》1945年 油彩・カンヴァス

ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし 全国巡回展情報
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