映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』

2016年01月12日
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映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』公式サイト
 20世紀が終わる頃、ある裁判のニュースが世界を仰天させた。アメリカに暮らすマリア・アルトマン(82歳)が、オーストリア政府を訴えたのだ。
“オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られてきたクリムトの名画〈黄金のアデーレ〉を、「私に返してほしい」という驚きの要求だった。伯母・アデーレの肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに略奪されたもので、正当な持ち主である自分のもとに返して欲しいというのが、彼女の主張だった。共に立ち上がったのは、駆け出し弁護士のランディ。対するオーストリア政府は、真っ向から反論。
大切なものすべてを奪われ、祖国を捨てたマリアが、クリムトの名画よりも本当に取り戻したかったものとは──?


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たまたま私が前回見た映画が「ミケランジェロ・プロジェクト」でした。ナチスが美術館から略奪した作品を、第二次大戦末期に奪還するプロジェクト。ナチスは公的、個人問わず美術品を略奪していたわけですが、「ミケランジェロ・プロジェクト」の対象が美術館という公共機関であるのに対し、『黄金のアデーレ 名画の帰還』は個人所有の美術品です。つまりナチスに略奪された財産を個人レベルで取り戻す話。いずれも史実に基づいています。
クリムトはとても好きですし、名作「黄金のアデーレ」のことも知ってはいましたが、近年このような出来事があったことは知りませんでした。(日本でニュースになったかもしれませんが、忘れてます)

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「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」通称「黄金のアデーレ」は、ウィーンで暮らすユダヤ系の裕福な一族が、クリムトに依頼した肖像画。バウアー家は芸術家のパトロンでもあったという。マリア・アルトマンはこの家に生まれました。
1938年ナチスはウィーンを占拠、「黄金のアデーレ」などバウアー家の美術品、財産は全て没収。新婚間もないマリアは、夫と共にアメリカに亡命します。
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細かいところでいろいろあるのですが、1998年、マリアは弁護士と共に、「黄金のアデーレ」の正当な所有者であることを証明し返還を要求します。このような人が大勢いて、戦後、返還に応じる制度(?)があるようです。
ところが返還の対象が「黄金のアデーレ」となると、オーストリア政府も焦る…いきさつはともかく、なにしろ国の国宝級の名画なのですから。あの手この手で返還に応じません。

まだ経験も浅い弁護士ランディはまことに頼りない。興味深いのは、ランディの両親も亡命してきたオーストリア人で、作曲家シェーンベルクの子孫なんですね。
最初は乗り気ではなかったランディが、自らのルーツをかさねて、裁判とともにたくましさを増していくところも見所。
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優雅できらびやかバウアー家の暮らしぶりが、マリアの回想として蘇ります…と同時に富裕層と貧困層の差も激しかったのだろうなと思う。
その暮らしも、ナチスによって一変します。全てを失い、両親すらおいて(おいて行かざるをえなかった)、間一髪アメリカに渡ったマリア。封印を解くように蘇る回想は、辛い過去を再びたどるもの。

マリアが返還を決意したのは1998年、亡命から60年、マリアは82歳です。60年たっても癒えない悲しみや後悔。マリア役のヘレン・ミレンの品格のある演技があってこその映画。
これはマリアの人生ですが、そうした悲しみを抱えて生きている人が、今も大勢いるということなんですよね。

マリアにとって、「黄金のアデーレ」の返還は、失ったものを取り戻すというより、60年の過去を受け入れ、心の整理をするためのものなんだなと思う。
所有者が誰かをはっきりさせて、まあ…ある程度の補償を受けられれば、それでよかったようにも想像しますが、マリアを見くびったオーストリア政府は、敗訴してしまいます。

「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」は、2006年6月、マリアの「誰もが鑑賞できるよう、常時展示すること」を条件に、156億円(1億3500万ドル)でロナルド・ローダー(エスティ・ローダー社)に売却され、現在はニューヨークのノイエ・ギャラリーに展示されています。

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グスタフ・クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」
1907年 138 cm × 138 cm
ノイエ・ギャラリー所蔵
http://www.neuegalerie.org

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