中林忠良展:未知なる航海―腐蝕の海へ

2016年08月31日
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中林忠良展:未知なる航海―腐蝕の海へ
2016年06月11日(土)~2016年09月11日(日)
CCGA現代グラフィックアートセンター
中林忠良(1937–)は、東京藝術大学在学中に駒井哲郎(1920–1976)との出会いをきっかけに銅版画の道へと進み、1960年代以降、日本におけるこのメディアを代表する作家として長年にわたり活躍してきました。
中林忠良は銅版画の中でもエッチング技法を表現の中心に据え、その制作における腐蝕のプロセスをつねに重視してきました。詩人・金子光晴(1895–1975)の言葉「すべて腐らないものはない」に深い感銘を受けて自らの作品哲学としたというエピソードが示すように、彼にとって腐蝕という現象は単なる製版の手段ではなく、生成と消滅を繰りかえすこの世界の縮図であり、そのありようを作品へと照射する鏡でもあります。そうして生み出された、光と影、生命と死といったものを寓意として秘めたモノクロームの画面は、静謐ながらも強い引力をもって私たちを深い思索へと誘います。
 本展は〈Position〉〈転位〉両シリーズを中心に、中林忠良の初期から現在までの主要な銅版画作品を展示し、作家の歩みを辿ります。展覧会タイトルの「Unknown Voyage(未知なる航海)」とは、銅版の腐蝕という完全なコントロールや予測が難しい作業になぞらえて、彼のアトリエにしつらえられた腐蝕室の扉に掲げられている言葉です。


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《Nucleusよりの便り IV》1964年

中林忠良さんについて詳しくないままやってきた企画展ですが、とても見応えのある内容でした。
初期の作品はすでに洗練され、頭いい感じ(笑)頭脳的で、野心的な印象。
それはそれでおもしろいけれど、今回の見所は、Positionシリーズと転位シリーズ、この作品群に圧倒されました。

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《Position ’89・腐蝕 I》1989年

Position シリーズのモチーフの多くは、草花が朽ちていく時間…でいいのかな?
モノクロ作品は、枯れた植物ではなく、植物の瑞々しさと朽ちて土へと帰っていく、その両方の時間を含んでいるようで、見ていて飽きません。
「すべて腐ちないものはない」ということば、自分自身も何物、全て腐食し朽ちていく。
冷静な視線であると同時に、なんだかとても雄弁です。

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転位-腐食過程は、作品の原版を腐食液に浸け、2時間おきに取り出して刷るという連作。
腐食によって版はおぼろげに、深い霧の向こうに消えていくよう、幻想的です。腐食過程であっても美しい。最後いびつなしみのようになった銅板の存在感が大きい。

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ひとけのない冬の森で、あるいは原野で、思索にふけるような作品たち。突き詰めた写実の中に心のありようが見えるような気がします。
美術館の外は猛暑でしたが、ここでは静寂の中にかさこそとした枯れ葉の音が聞こえてきそう。

技法は1つの作品にエッチング、アクアチント、メゾチントなど複雑過ぎて、どこがどうかわからないですが、紙と版の質感は実際に見てこそ。

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「転位 13-光-Ⅰ」
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