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木口木版に挑戦

2010年09月30日
美術館の実技講座で、木口木版をやってみました。朝から夕方まで、2日間の講座です。
一般的に普及しているの木版画は板目木版、小学校の授業でやるのも板目木版、「板目」とは木目を平行に切った板面を彫るのに対し、木口木版は丸太を切るように、木を輪切り(木口)にします。要は年輪が見える木を彫るということ。

板目に対し木口木版は、ツゲや椿など堅い木を使用します。
細かい表現ができるのが特徴で、オフセット印刷が発明される前までは、図鑑や挿絵で活躍したのが木口木版でした。

木口木版について

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「不思議の国のアリス」より、ジョン・テニエルの挿絵

講師の先生によれば、「不思議の国のアリス」のあの有名なテニエルの挿絵が、木口木版だそうです。
また「ピーターラビット」のV・ポターは、当初木口木版での出版を考えていましたが、新しい印刷技術、オフセットが開発された時期で、オフセットで出版となりました。

現代日本で、木口木版作家の第一人者日和崎尊夫は「闇を刻む詩人」と呼ばれていました。
「暗い闇の深淵よりさしてくる亀裂の光をビュランは捉えなければならない。」
「暗闇の中から光で何物かを取り出すこと」

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上記2点は、日和崎尊夫の作品。割れた木の断面も作品の味わい。
このように微細に描くことができるのがこの技法の特徴です。
それにしても、なんと細かい!

なるほど、板面の暗闇に、ビュランで光を入れていくということですね。
この技法の特徴なんでしょうが、単にモノトーンの描画というより、光の線(点)で描くという言い方は、しっくり来ます。
線描きの下絵に光の線でコントラストをつけて浮き上がらせる…というようなイメージでしょうか。

実際にやってみると、板目木版とはずいぶん違います。
木版ですから凸版、彫り残した面にインクが付き、絵柄になるところは同じですが、作業はエッチングのような感じです。
今回は、直径12cmくらいの輪切りの版木を使用、あらかじめ板面を薄い墨で塗っておき、下絵を転写します。
ビュランという細い彫刻刀…というか、細いノミのようなもので彫るのですが、彫ると言うより、暗い板面に白い線で描いていくような感じです。木くずもほんのわずかです。
彫った線や点描は、そのまま白くなります。慣れないと線がすべってしまう。
ビュランの使い方に慣れるまで少し時間がかかります、思うように線が彫れない、滑る、力が入りすぎて深く彫ってしまう。
想像していたよりずっと繊細、肩がこるような細かい作業、力ではありません。

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彫り終えるといよいよ刷りです。リトグラフ用のインクをゴムローラーで塗り、バレンで刷り上げます。
コツはいろいろありあますが、ここからは力技。インクはつけすぎると細い線がつぶれてしまうのので少しだけ、そして細い線を刷るには力が必要というわけ。
出版物として使われていた時代は、専用のプレス機を使っていました。
作家の大きな作品は、木口を組み合わせて作っているそうです。

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輪切りの木のシルエットがそのまま絵柄の境界線になります。
丸ではなく、いびつな形の方がおもしろいかもしれません。

今回は事前にモチーフを決めてくるようにと連絡があり、よくわからないままヤマユリにしましたが、我ながら凡庸なモチーフだったかなと少し後悔。
写実を追求することにむいている技法ですが、やってみて心象風景を気の向くまま微細に…微細に…描き込んでいくのが、おもしろいという気がしてきました。
木の質感を感じながら彫る作業は、没頭できる時間、そういう意味では私に向いているかもしれません。

(追記)
画材にふれるのを忘れていました。
私が今回使ったのは直径12cm、厚さ2cmほどの中国産のツゲ。
想像できると思いますが、輪切りの木で、使用できるほど板面(面積)が取れる木というのは、なかなか入手困難、最近では寄せ木細工のように組み合わせた四角い版木(ネットの画材店で1000円位)が多いようです。
今回の講座ではツゲの輪切りを使用、そういう意味でラッキーでした。
ビュラン(彫刻刀)は1種類あれば十分。
インクと紙はリトグラフ用と同じ。
インクを塗るためのゴムローラー、バレンは少しいい物が必要かもしれません。

大がかりな設備(プレス機)などが必要な講座だと、その時限りになりますが、木口木版は個人でも対応できる用具なのがいいですね。
小さな版木とビュラン1本あれば、旅先でも時間を見つけて彫ることができる…という講師の言葉が印象的でした。


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